夢日記:陰翳

夢を見た。天井の果てしなく高い、コンサートホールの舞台のような場所だった。客席の気配はなく、横へのひろがりもまるで掴めなかった。照明はぼんやりとしてうすぐらい。そこへ一疋のスズメバチが迷い込んできた。

ぼくは既に手にしていたのか、近くに落ちていたのか、はたまた何処(いずこ)ともなく現れたのか、ともあれ、段ボールで蜂を挟み込み、その動きを封じた。それを地面に置き、上から力を加え、押し潰して殺めようとした。が、蜂の針が段ボールを貫いて鋭く突き出てきた。ぼくは恐れ慄いて、あるいはこのまま決行するのは危ういと判じて、蜂退治をひとまず諦めた。

そのうち逃げ出したのか、スズメバチはふたたび空間を縦横無尽に飛び廻りはじめた。ぼくは今度は、ハリセンのような形に整えた新聞紙の束を手に取り、蜂を盲滅法に叩(はた)いた。すると一撃のうちに、蜂の足と翅と頭が悉くもげ落ちた。それどころか、黒と橙の縞模様のうち、黒色の部分だけがそっくり剥がれ落ち、尻の黒い部分が針とともに抜け落ちた。もはや飛ぶことのできなくなった橙色の胴体だけが、散逸するかつての躯(むくろ)の欠片のなかで、芋虫のように顫動していた。

ふと視線を落とすと、光沢のある木質の床に、一疋のヤモリめいた生き物が居るのを見つけた。掌になんとか収まるほどの大きさで、鮮やかな黄緑色の絵の具をべったりと塗りつけたような、なめらかな肌をしていた。わけても目を引いたのは、その尻尾だった。丸みを帯びた立方体が、それぞれ少しずつ向きを違え、互いにめり込みながら一列に連なっている。それらは根元から先へゆくにつれて少しずつ小さくなり、尾は全体としてゆるやかに細まっている。構造色によるものか、光の当たり方によってときおり虹色に煌めいて見えた。

実際に掌に乗せてみると、その生き物は子猫のように丸くなり、やすけさのなかでそっと目蓋を閉じた。