マスカルポーネの歌

マスカルポーネは森を彷徨う。

ゴルゴンゾーラの霧は沈み、
ロックフォールの崖は鈍色に濡れる。
朽ちたパルミジャーノの雪原に差掛り、
かれはひとり、沈黙の乳白を踏む。

この森は青黴に満ちている。
それなのに――
甘きものは、ただ自分ひとり。

月影にグレーターの音が滲み、
エメンタールの霙が黙しつつ
はらはらと降り始めた。

世界はなおも、静かに発酵を続ける。