縹渺
蝶々がくずおれて灰になった頃、
その階段の涯てには、
青一色の空がひろがっていた。
音がしても、なにも見えない。
姿無き人形が九人、
首を傾げてわらっている。
階段の上にも下にも、何ひとつとして存在していない。
縹渺たる青空にただ一条、
この階段だけが人形たちの世界の全てだった。
人形たちの営みは、この階段の昇降に尽きる。
一本の隊列をなし、絶えず上ったり降りたりを繰り返す。
ただ只管、上り、そして降りる。
永久に続くはずだった。
そのとき、音がした。
前から二番目の人形が急停止した。
続く七人もそれに倣い、
先頭の一人だけがすこし歩みを進めてから、
列の最後尾で立ち止まった。
人形の鼻先には、蝶々の灰がなおすこし積もっている。
世界はようやく休息を得られた。
青の虚空ただひとつを残して。