2025年12月句集

つつましい一日の紙の余白

水のつめたさ固くしぼる

台所の水きらきらとして冬に入る

昼のひかりはかえりゆく子の唄声

猫にひょいと顔見せて帰る夕月

(もち)の実、(もち)の実、天高く燃ゆ

雲ひとつ浮かびては還るのみ

朝朝(あさあさ)の水飲めば血の幽かな

蜜柑、皮だけ残して出立す

失敗してまた失敗の綿毛飛ぶ

溶かせども溶けきらない湯の流れ

夜のしずけさとなる私の搏動

ただここにいることの沈黙

風に押されて走りゆけば寒空

細波のやすけさとあり尉火焚(じょうびたき)

きょうの終りは青鷺が曳いてゆく

なにか零れる夜が満ちてくる

名も知らぬ丹花(たんか)として陽が落ちる

御守がまだ落ちている路の冷えゆく

宵の梢を巡らせる空を閉ざす

みどりさららと冬の香りして

水影のほおえみて忘却す

枯葉も散り込むこころとなって

どぶの筒からもみどり

枯れ尽くしてもすずめの木として

冬の星見えぬ(そば)にて立ち尽す

ふゆごもり青い砂漠の空に落つ

逢うほどに紅をいや増す松の木よ

凛として九時を繰り返す時計

冬日のしろいノートをひらく

水鏡とめどなく瞳は搖れて

おのが葉も掃き捨てられて冬の木よ

わが足音を蛙鳴く

黒い夜のひとつぽたりと坐りたり

わが息も沈みはじめた部屋を出る

いもむしや木枯しのなか這いすすむ

虹とけて青さばかりの空に立つ

電線の五本並んで冬の音

からっぽの切り株からたんぽぽ咲いた

目の中の羽虫散りぬ

冬に坐しハーブドロップ()み砕く

きょうは二つの影とおりゆく蜜柑畑

冬の日を(こうべ)の裏まで透しけり

しずく滴るばかりの夜であった

雨降り生命の始りにも終りにも

置時計死ぬる部屋の水音

わたしが渡るだけの川深くなり

雨のつめたい戸を閉ざし雨音ばかり

こぬれ(木末)しずくを実らせては落とし

零れるほどの零を書き連ねている

浮雲掴みそこねた手のかたち

日に入る白鶺鴒(はくせきれい)の舞

冬夜の長い爪を切る音

夜夜(よるよる)蛞蝓(なめくじ)が這った鏡の向う

思い詰めた顔の寝癖よ私の顔よ

もみじここまで飛んできて果てた

いつもの辻さえ振り返らない雲の一閃

このまま終ることの日がおちてゆく

弱い身を暖房に透かし赤い血潮

聖夜、いつわりの焚き火にかざすものなく

ひだりのほうがあたたかい手をあわせる

そのしずもりにぬれていた本の頁

何処(いずこ)ともなく雫は垂れて二つ三つ

風あじわえば霙のとけゆく

寄りて来て数学書に紛れる蝿である

唇かすかな夕べの棕櫚(しゅろ)

ひさびさ晴れやかな空の終りは飛行機と落つ

もう白くはならない紙が垂れている

泣いてもおくびが出る、灯にかざしている

いのるべきものがない私に祈る

来し方の道をふたりで歩いて廻る