2025年11月句集

(最初の数句に9,10月の作を含む)

月かげの蝉しぐれを聞いていた

部屋に未生の秋を招く

猫と連立ち薄月夜を帰る

蒼風の虫の唄

宵雨のともしびのこおろぎ

こうもりもわたしも影となる薄闇

曼殊沙華死ぬる灯りの照らすもの

風吹けば夕影が舞う川路かな

鞦韆(しゅうせん)の軋り音高く児が咲う

虫の子が這い出してみんな踏まれる

日だまりはほどけゆくこおろぎ

金木犀の返り咲く夢のつづき

その先に墓ある階段を下りる

芒のひかりは遠くなびいて無何有郷(むかゆうきょう)

木の葉くるりと、わたしはまっすぐ

鷺が鷺追う光と影と

来し方の秋陽(あきび)さす橋を渡る

たまゆらの空の淋しさとろめけり

戯れの小蜘蛛の腹が痩せている

うつむいた頭もたげて風立つや

児の指に触れた夕焼け

淋しさの皿を洗う

暗い部屋の卵が黙している

外の闇がびゅうびゅう吹いているらしい

よろぼうてしづかに去った蚊の東雲

ねむれない目蓋があかるんできた

わが影を打連れて木枯らしの中

鴨が波立てた円心

秋空のうつくしさ、そっとしておく

冬来たる部屋の無音を聴いて居る

たそがれの鉄塔やほろほろくずれゆく

ひらいてとじて蝶々のうすれゆく

秋蝿やひかりのすこしのこるかな

かさこそと音すれば雀の子

夜の底に触れた水音

コスモスみんな刈られてしまった夕空

青鷺よ、いつもそこにいるのだね

鴨がくるりと廻ってまた明日

ひかりうすく音だけめざめて

秋の昏れ、かえらねばならぬ場所がある

夕窓や二十年後の猫は去ぬ

オルゴール、夜の気配が廻り出す

冬蜘蛛やもう君のいない冷蔵庫

眩しさは鳥踏まれたる歩道かな

ただ歩むよりほかない道の葉擦れかな

シャボン玉園のうら来て消ゆるなり

冬空は花野の夢を見て寐たり

雪だるま、この地に雪は降らないけれど

(冷蔵庫の蜘蛛がとうとう斃れたらしかった
その蜘蛛はずいぶん前から冷蔵庫の扉に居た
指先でかるく触れてもよろめくばかりで
先はながくないだろうと確信した
まるで蜘蛛がみずからの終わりを悟り
此処を最期の場所に定めたかのように思えた
連日指先で触れては息があるか確認し
微かに動いてくれるとぼくはうれしかった
初冬の夜更け、しずかな暗い部屋
ささやかなお別れであった)

蜘蛛よ、斃れてもそこに居る

銀杏散り敷くこの階梯を上るとす

睡たさは月みちたりて、缺けている

紅葉、世界の紅くしみ透る

光あれば羽虫舞う

墓の柿ふたつ残れり

雪虫、満ちゆく月に昇るかな

歩けば生れる風